戦国中山王方壺を習う(40)

「孯(賢)(措)能亡」 賢を(進め)能を措き、(輟息すること有る)亡し。

孯」(賢):3回目です。

」(措):偏は「昔」(セキ・ジャク・ソ)、旁は「攴」(攵)からなる字で、諸賢は音通する「措」(ソ・サク)を充てています。「散」の異体字も「昔・攵」の形に作るので注意が必要です。「昔」は日にあてて乾かした薄切りの肉が列べられている様。中山篆は日が田に変わってしまっています。

「能」:2回目となります。旁の部分が独立していますが、本来は偏部と一体のもので、水中の昆虫か獣の足とされています。

「亡」:屈葬にされた屍体の形です。下部の扇形の中に1画入るパターンもあります。

戦国中山王方壺を習う(39)

「夜匪解進」 (夙)夜 解(おこた)らず。(賢を)進め

「夜」:人の両脇を示した「亦」の片方を「夕」(月)に替えた形。「夕」(月)と夕方の日が傾くことで長く横たわる人の影の形「大」ともとれます。西周金文では「夕」が右側に配するのが一般的ですが、中山篆では逆にし、右側は渦紋に変えています。

「篚」(匪):篚(ヒ)は匪と同様に竹製のはこ。共に「非」と通用します。中山器では唯一の字例です。

[解」:角と刀と牛とから構成される字で、牛を刀で解体する様です。「角」をこのような字形にしたものは円鼎・円壺に出てくる「數」とされる字に認めることができます。その字は両手を示す「」(キョク)と牙形の「与」と「言」とからなるものですが、牙を角に変換したものと思われます。

[進」:「隹」(スイ)は鳥の象。進退を鳥占いによって決める様とされています。これも中山器で唯一の字例です。

戦国中山王方壺を習う(38)

「賃(任)(佐)邦夙」 任を(受け)邦を佐け、夙(夜)

「賃」(任):2回目です。

」(佐):旁の差は禾と左とからなりますが、禾が省形となっています。隷定にあたっては偏に獣の形である豸(タイ・チ)をあてる識者もいますが、中山器に出てくる「然・猶・獵」などと同様に獣偏でよいと思います。なお、この字について、円壺には禾を省き偏旁を入れ替えた字例もあります。

「邦」:2回目です。

「夙」:甲骨文の字形からすると、月の形である「夕」と両手で奉じ拝する形である「」(ケキ)とからなる字で、早朝の残月を拝する様です。活字体は風の凡と同じ形ですが、これは誤ったものです。また、夙の一部が前回の「受」と同じになっているのも、類型化しようとして誤ったものです。なお、「」の下部に「女」の形が入りますが、「處」字の例で明らかなように足を表す形が譌変したものと考えられます。

 

 

「夙」の各体 [字通より]

「處」の金文比較  [字通より]

戦国中山王方壺を習う(37)

「貳其心受」 其の心を貳つにせ(ず)、(任を)受け

 

 

「貳(弐)」:中山諸器の中でこの字の例はこれが唯一のものとなります。この字は本来、刀を指す「戈」と鼎の象である「貝」と数詞「二」とからなり、鼎に刀をもって銘を刻み、鋳造によって副本が作られることを表しますが、中山篆では鼎の部分「貝」が「月」(にくづき)に譌変しています。

「其」:3回目です。

「心」:心臓の形に象る字です。この字も中山諸器で唯一の字例となりますが、「心」を含む字となると、「忘・志・忍・忨(愿・願)・忠・忽・念・怒・恐・恕・訓(順)・恁・寅・勞・惑・惠・寍・愚・慈・肆・德・慮・憂・憚・憼(儆・警)・憶・謀・懼」などが挙げられます。

「受」:盤を表す「舟」の上下に手を配した授受する象です。文意から判断すると、ここでは「受」の意で用いています。盤の形「舟」が変形してしまっていますが、包山楚簡にもこれと似た傾向がみられます。