戦国中山王圓鼎を習う(89)「業々恐隕社」

《氏以賜之厥命。隹又死辠、及參世、亡不若。以明其悳、庸其工。老貯奔走命。寡人懼其忽然不可得、憚々業々、恐隕社稷之光。氏以寡人許之。、克又工智旃。詒死辠之又若、智爲人臣之宜旃。》

《是れを以て之(これ)に厥(そ)の命を賜ふ。死罪有りと雖も、參世に及ぶまで、若(ゆる)さざる亡し。以て其の徳を明らかにし、其の工(功)を庸とす。吾(わ)が老貯、奔走して命を聽かず。寡人、其の忽然として得べからざるを懼れ、憚々業々として、社稷の光を隕(おと)さんことを恐る。是を以て、寡人之を許せり。謀慮皆従ひ、克く工(功)有るは智なり。死罪の若(ゆる)さるる有るを詒(おく)り、人臣爲るの宜(義)を知るなり。》

○「々」(業々):「々」は「ぎょうぎょう」と読み、畏れる様をいう語です。この「」は「業」に通じ、「業」はまた災いや危ういという意を持つ「隉」(げつ)にも通じる字です。(45)には「」(業)が出ていましたが、この場合は仕事・事業の意として使われていました。「業」はぎざぎざの歯があって土を撲(う)ち固める版築の道具とされています。

○「」(恐):「恐」は呪具である「工」を両手で掲げる「」(きょう)からなりますが、この「」が「恐」の初文であり、両手を省いた「」も同様に畏れかしこまる意となります。このところ、「心」を含む字がたびたび登場してきますが、中山三器には「心」を含む字が実に31種存在しています。

○「隕」:天より落ちるものをさす字です。声符の「員」(いん・えん)は鼎の口のまるい様をいうことから「まるい・あまねし・かず」などの意を持ち、「阝」は神梯、つまり神が天から降りてくるためのはしごの形です。梯子の足をかける段は中程にコンパクトに集めて緊密にし、上下の伸びを強調させます。

○「」(社):4回目です。国家をさす「社稷」の語として円鼎銘文に使われています。