戦国中山王圓鼎を習う(86)「不聽命寡人」

《氏以賜之厥命。隹又死辠、及參世、亡不若。以明其悳、庸其工。老貯奔走命。寡人懼其忽然不可得、憚々業々、恐隕社稷之光。氏以寡人許之。、克又工智旃。詒死辠之又若、智爲人臣之宜旃。》

《是れを以て之(これ)に厥(そ)の命を賜ふ。死罪有りと雖も、參世に及ぶまで、若(ゆる)さざる亡し。以て其の徳を明らかにし、其の工(功)を庸とす。吾(わ)が老貯、奔走して命を聽かず。寡人、其の忽然として得べからざるを懼れ、憚々業々として、社稷の光を隕(おと)さんことを恐る。是を以て、寡人之を許せり。謀慮皆従ひ、克く工(功)有るは智なり。死罪の若(ゆる)さるる有るを詒(おく)り、人臣爲るの宜(義)を知るなり。》

○「不」:7回目です。頭部に一画載せないタイプです。中山三器には36の字例がありますが、同タイプは8例です。

○「」(聽):「聽」は「耳」、「壬」、「悳」からなり、活字にも「」がありませんが、甲骨文、金文では「壬」、「悳」は付かず、「耳」と「」のみで構成される字例が多くなります。似た字として「聖」がありますが、「聖」は直立つま先立ちする形「壬」が甲骨文、金文ともに入り、中山三器の方壺にも「壬」がついた「聖」の字がでてきます。両字は神の声を聞き分ける超人的な能力を持つことをあらわす字で極めて近い関係を持っています。

○「命」:3回目です。頭に祭帽を載せ、跪いて神の啓示を待つ姿「令」と祝祷を収める器「」(さい)からなる字です。「卩」が「」を抱くようにして配します。

○「頁々」(寡人):8回目です。重読のために踊り字(二の字点)がついているのですが、これで「寡人」と読ませたいようです。実にユニークであり、鷹揚性を感じます。常套句であるこの2字。確かに「寡」の構成の中心となるのは「人」ではあります。