戦国中山王方壺を習う(33)

(食)(寧)又(有)(懅)」 (飲)食し、寧(なん)ぞ懅(惕)(キョテキ)すること有らん

」(食):ここでは飲食の「食」。食と人からなる「」(シ)は「食」と声義が近く、「」が名詞的に使われるのに対して「食」は動詞的に用いられます。

」(寧):この字は「寧」に隷定できます。中山三器それぞれの用例を比較すると、円壺に2つのタイプがあり、それらが方壺・円鼎に別々にみられます。ただ、方壺の字形はウ冠が省略されたものとなっています。「寧・寍」はおそらく同字で、廟所にて犠牲の心臓を供えて祀り、安寧を希求する様と考えられます。

「又」(有):3回目となります。

」(懅):音はキョ、ここでは「遽惕」(キョテキ・おびえる)の意で用いられています。遽と懅は通用します。字の構成は、廟所をあらわす宀(ベン)と鐘類の楽器を架ける台座である「」(キョ)の異体字である「虡」の虎頭を除いた部分、そして心からなります。この字を諸賢は「」という具合に構成素に「火」を認めていますが、これは「虡」の金文体の下部が譌変したものと考えてよいと思います。「」の魚の下部を「火」形にするなど中山篆では屡々認められる特徴です。