戦国中山王方壺を習う(31)

「賃(任)之邦氏(是)」  之に邦を任(まか)す。是を(以て)

「賃」(任):「賃」の音は「チン・ジン」。声符「任」には「ニン・ジン」の音があり、両字は通用する関係です。「任」を構成素とする字には円鼎に「おもう・やすらぐ」の意を持つ「恁」(イン)がありますが、「壬」の部分の形に違いがあります。なお、円壺中の「賃」は「亻」と「貝」の脚が省略された省体になっています。

「之」:2回目です。

「邦」:2回目です。声符の「丰」(ホウ)は苗木を表し、苗木を植えて地祭をなし封建の証とする形です。「丰」の形には下に地をあらわす横画があるものとないものがあり、方壺では全て横画があるパターンであるのに対して円鼎は全てないパターン。そして、円壺では冒頭の怱卒な刻銘になっている部分にある1例が「なし」、他の2例が「あり」と混在となっています。

「氏」(是):《字通》には「小さな把手のある刀の形。共餐のときに用いる肉切り用のナイフ。その共餐に与(あずか)るものが氏族員であったので、氏族の意となる。」とあります。氏の音は是(ゼ・シ)と近いため通用します。ただ、段玉裁が是を氏の本字とする点については、「是」は匙(さじ)の形で小刀である「氏」の形状と異なっており本字とするには首肯できかねます。渦巻きの部分と縦画の肥点の位置を揃えて書きます。