前回登場した「貯」の隷定について、浅学を顧みず私の所見を紹介させていただきます。これは2017年9月に河北省石家荘市において中国河北省中山国文化研究会が主催する「中山篆書法篆刻学術報告交流会」にて発表したものから一部を抜粋したものです。今回を含め2回に分けて投稿します。この諸賢のご批正、ご指導を賜りたいと思います。
今回取り上げる問題の字の拓影は
となります。この戦国期の篆書を楷書(活字)体に当てはめようとする作業が隷定です。漢字の研究ではよく用いられる手法に中国音韻学による方法があります。その手法の一つは、同系の音韻は同義に通じる可能性が高いとするもので、それに拠った研究者および字説はよくみうけられるものです。しかし、同音異義も当然あるわけですから、強引な説解には誤謬の危険性を孕むことになります。今回の拙論はその切り口は採らず(そもそも門外漢ですから)、ただ漢字に親しみ、数多くの字例に関わってきた一人の表現者としての感性を拠り所にした判断にすぎません。以下、字形上の問題として掲げた2字の一つとして認めた「貯」字論です。