「羊(祥)莫大(焉)」 (不)祥、焉(これ)より大なるは莫し。
「羊」(祥):これは中山諸器では唯一の字例です。「祥」の省文ともされますが、「祥」の金文の字例は他にはみられず、そもそも羊は神判に用いられる犠牲で、神意に適う場合の「善」に「羊」が含まれるという具合に、「羊」には「よい・めでたい・ただしい」などの意を含んでいます。さて、中山篆の字形は独特な形をしています。これについて、小南一郎氏は「羕」(ヨウ)の形をあてています。しかし、「羕」の他の金文字例と比較するとなお首肯するには至らない気がします。「羊」の下に「示」を配した上で簡略化したように考えることも同様です。したがって、ここでは「羊」の異体字とするにとどめておきます。
「莫」:これも中山諸器で唯一の字例です。深い草むらに日が沈み隠れる形です。声符である「茻」(ボウ・バク)は「莽・葬」にも含まれ、草が茂って暗い様や墓地をあらわしています。ここでは「なし・なかれ」の打ち消しの意で用いられます。
「大」:2回目です。
「」(焉):「鳥」と「正」とからなっており、「焉」とされます。しかし、この「焉」は中山篆以外に古い字例がなく、段玉裁の「説文解字注」でも「今未だ何の鳥なるかを審らかにせず」として詳らかにされていません。《字通》では「烏・於が死烏やその羽の象形であることからいえば、焉も呪的に用いる鳥の象形で、そのゆえに疑問詞にも用いるのであろう」としています。