「北辰居其所而衆星共之」《論語》為政篇

北辰居其所而衆星共之
63㎜×48㎜
郭店などの楚簡に取材

私が開設している「観星楼書道篆刻研究院」は「観星」の印影をロゴとして使っています。書体は西周時代の金文体です。

觀星 34㎜×34㎜

論語為政篇には「子曰 為政以徳 譬如北辰居其所 而衆星共之。」(読み:子曰く、政を為すに徳を以てするは、たとへば北辰其の所に居りて、衆星の之にむかふが如し、と。)とあります。天空遙か、取り巻く衆星の中心にあってその立ち位置を忽(ゆるが)せにせず、常に光を発し続ける北極星は航海の重要な指標としても知られています。この北極星を核とした星列が北斗七星です。「斗」は酒聖斗庵先生、「七星」は門人共々七賢を想起させます。先生は主催する研究会の名称を「北斗文会」と銘じましたが、今でもその名称からは先生の強い自負が伝わってきます。

私が刻した「観星」でいう星とはその北極星のことであり、また、品格を有す先賢古典群、そしてかつて師事した巨星ともいうべき小林斗盦先生、白川静先生両先師のことを指しています。とりわけ両先師の教えやその真を追求する揺るぎない姿勢から学んだ多くのことを常にこの小さな心の中心に据え、これからも自分の戒めにしていこうとかんがえています。

先師小林斗盦先生は、論語為政篇にある「北辰居其所而衆星共之」を1986年に刻されています。側款によれば、家族が集う古希の祝宴の後、醉郷醒めやらぬまま帰路につき、室に入りて北望、興を発して奏刀されたとあります。この印は、2016年11月から12月まで東京国立博物館東洋館にて開催された「生誕百年記念 小林斗盦 篆刻の軌跡ー印の世界と中国書画コレクションー」展に出陳されたもので、格調高い鑿印の刻風と精緻な側款が映える名品です。これも私にとっては輝く「星」。今回は畏れを弁えずに拙作と並べ飾らせていただきました。幸運にも、今この宝印は拙齋の賓客となっています。

 

小林斗盦刻「北辰居其所而衆星共之」 25㎜×24㎜