①般若心経より「色即是空空即是色」。
私は不勉強で、この8字印の先例を見たことがありません。「色即是空」と「空即是色」を別々に為すのは比較的容易いのですが、この8字を一つに配する章法となるとなかなか難しいものです。同字が2回ずつ使われる上に「空」が連続します。「空」は踊り字(繰り返し記号)を用いて3行構成(色即・是空空即・是色)にすると「即」が1行目と2行目で行尾に並び、「是」が2行目と3行目で横並びとなります。同字4種にはそれぞれ形に変化を加えることにも配慮しなければなりません。
拙作は、小篆を用い、「色即」を一つの文字のように工夫して、全体に安定感を持たせようと狙いました。
②仏教で、人間のもつ根元的な3つの悪徳を指す「貪瞋痴」。「貪(とん)」は自分の好むものをむさぼり求める貪欲,「瞋(じん)」は自分の嫌いなものを憎み嫌悪する瞋恚(しんい),「痴(ち)」はものごとに的確な判断が下せずに,迷い惑う愚痴のことで,三毒,三不善根などとも呼ばれています。自分の中にも巣くうそれらを断つという願いを込めた、小篆白文による作品です。