作品の題材を古典に取材する例   《化度寺碑》の場合

歐陽詢による化度寺碑の碑文中から「體道蔵器」の句を抽出した作品です。

「體道蔵器」(道を体して器を蔵す)

印文を探す場合、初心者ならまだしも、墨場必携などを用いれば必然的にすでに他者が作品にして発表していることを知って興ざめする結果を招くことにもなるでしょう。一方、人物を顕彰するために建てられた石碑などは、格式を高めようと歴代の典籍を引用し工夫の限りを尽くして美辞麗句を鏤めようとすることが多く初見のものにも出会うことができます。「孔子廟堂碑」や「化度寺碑」など初唐の名だたる碑群はその良い例です。碑文中には含蓄に富み、かつ簡潔にまとめられた語句が豊富に存在します。四書五経にいちいち当たらずとも名句に出会うことも可能かもしれません。

私は、日展や読売書法展など中央の公募展に出品していた初期の頃は『新選 墨場必携』(小尾郊一著 中央公論社)をよくもちいていました。大変良く編集された有為な書だと思います。しかし、印文に相応しいものは、語句の含蓄性とは別に字形連関の縛りがあり、しばらくするとネタ切れになっていきました。その後は、諸橋徹次著『大漢和字典』の解説の文章中に墨場必携には取り上げていない語句を探すことがしばらくの間続きました。そして現在では碑文や簡帛に名句を求めることも加わり、また時には先人の用例の有無に囚われず、その時の思いに沿ったものを表現するようにもなりました。

化度寺碑拓
(王孟揚旧蔵本)
體道蔵器(含節臨化度寺碑)
馬王堆帛書から着想
89㎝×44㎝
體道蔵器(小篆)
29㎜×29㎜