雅印『翠龍』のご紹介

ご依頼により制作した雅印をご紹介します。印文は雅号『翠龍』です。

書体は楚簡風でとのご希望です。「翠」には金石の古い字例がありませんが、戦国期楚系の簡帛にまとまった字例がみとめられます。「翠」はみどり、カワセミの意を持つ字ですが、下部にある声符の「卒」は、本来「死卒」つまり死者の衣の意で、死者の霊が迷い出ないように衣襟を合わせ閉じる姿です。

この「卒」は楚簡では衣の上に手を添えているものがありますが、「翠」になると、その手の形が「首」、「自」、「目」などに訛変(誤って変わってしまうこと)してしまうことがわかります。さらに「衣」の部分も「辛」に近い形に大きく変化してしまいます。しかし、それでもよく見れば「衣襟」を合わせた本来の形がうっすらと浮かびます。

これらの基本を踏まえて印稿・奏刀と進みます。翠龍先生にはご承諾をいただきましたのでここに印影をご紹介いたします。ご覧ください。

翠龍(2.4 × 2.4)

第25回栃木の書壇50人展出品作

令和2年2月8日(土)~17日(月)
東武宇都宮百貨店5F特設会場
栃木県を代表する50人による新作2点、合計100点を展示。作品は頒布もされました。

 今回、私が発表した作品は次の2点。

 大作の方は「学毛公鼎銘」と題した軸装三幅。西周青銅器中最多の499字の銘文を持ち台北の故宮博物院を代表する国家重要文物の一つである毛公鼎を臨書したものです。
 小品は「干支印庚子逍遙」。近年、同印文による印稿表現力の開拓に取り組んでいますが、これもその一環のひとつ。当初、十顆制作の予定でしたが、事情があり結果としてその半分になりました。参考までに印稿を一緒に紹介します。

「学毛公鼎銘」「学毛公鼎銘」

「干支印庚子逍遙」「干支印庚子逍遙」

 

庚子五種
干支印庚子印稿十種

雅印のご注文 「芳江」かな2×6用

雅印のご注文 

今回ご紹介するのは、「芳江」です。今回のご依頼主は渡辺祥蒲先生です。

この印を使用する作品の種類とサイズは、 「かな作品」、「2×6」用です。

かな作品と調和することを考えて楕円変形印を、また、印の空間が重くならぬよう「朱文」でというご希望です。

書体は今回、奇を衒わず基本的な「小篆」にしましたが、軽妙かつ洒脱な雰囲気を醸し出すために、線の質と緊張感を高めながら、一方で、造形上2字にわずかな高低差をつけ、上下の流れに回転とうねりが加わったベクトルを内包させました。

[印稿]

最初は上の印稿で進めるつもりでした。「方」は中心に向かって絞るような回転を加えることで、逆に周囲へ放射状に光を放つベクトルを内包させました。左は古璽と中山篆です。
2.8 × 1.5

 

惣誉酒造の絶品 『還』

惣誉酒造の絶品
『還』

創業明治5年、清流鬼怒川水系を伏流井に持つ老舗酒造が、蔵人の熟練の技と魂によって、伝統の「生酛づくり」による芳醇さとエレガントさを兼ね備えた深い味わいを実現。特別限定品で珠玉の一品です。幸いにも、ラベル揮毫と印制作のご縁からその恵を堪能することができました。

近作紹介 「臨陳曼簠」

近作のご紹介です。 「臨陳曼簠」
この作品は、先月開かれた栃木県書道連盟会員展に出品したものです。
今回は栃木県総合文化センターが改修中のため、会場が宇都宮市文化会館になりました。
例年と比べて展示スペースが狭くなりましたので、色紙の小作品にしてみました。
内容は、中国戦国期、陳国の青銅器銘文から「陳曼簠」を臨書してみたものです。
この時期の篆書の魅力は、何といっても列国間に個性の競演がみられる点にあるようです。

臨陳曼簠
釈文[斉陳曼不敢逸康、肇勤経徳、作皇考献叔饙盤、永保用簠] (※現代字をあてています。)

観星楼コレクション No.1 『夢庵蔵印』(初印原鈐本)

家蔵の書画文物について、気が向いた時になりますが少しずつご紹介していきたいと思います。1回目は中国古銅印蒐集として我が国の5大コレクションの一つと言われる太田夢庵(1881~1967)コレクション。家蔵はその中の一つ、太田夢庵がその最初の志として綴輯した『夢庵蔵印』です。

詳しくは、メニューの観星楼コレクションからご覧ください。

1帙8冊からなる

収蔵印「自適齋珍蔵記」は河井荃廬33歳の時の刻。 西川寧氏は「河井荃廬の篆刻」(二玄社)でこの印について触れている。

 

 折しも、岩手県立博物館においては、6月2日まで岩手県立博物館・岩手県文化振興事業団主催、岩手大学・盛岡大学共催によるトピック展「風雅好古ー太田夢庵の金石収蔵・研究と文人の世界ー」が開催されています。これは太田夢庵(本名:孝太郎)の没後50年にあたる2017年、岩手県立図書館に於いて企画展「没後五十年 郷土史家、太田孝太郎展」に続くものですが、今回はこの展覧会開催を記念して岩手大学と復旦大学の共同で中国古印研究をテーマとする「中国古印研究国際シンポジウム 2019 in 岩手」が4月21日と22日の2日間にわたって併催されました。

「風雅好古-太田夢庵の金石収蔵・研究と文人の世界-」展図録表紙
同裏表紙

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンポジウムで発表された研究者の方々と演題は以下の通りです。

 基調講演1  玉澤友基氏(岩手大学) 年譜に見る太田夢庵の収集と研究
 基調講演2  劉釗氏(復旦大学) 秦代の「交仁」等の印から見た秦文字の用字習慣について
 施謝捷氏(復旦大学) 新見古璽印に現れるいくつかの複姓について
  廣瀬薫雄氏(復旦大学)   敦煌一棵樹烽燧遺跡出土西晉簡牘の「塞曹印信」について
 石川日出志氏(明治大学) 漢魏晋代駝鈕印の再加工
 松村一徳氏(シルクロード研究所所長) 『夢庵蔵陶』-太田夢庵の陶文研究-
 矢野千載(盛岡大学) 江陵鳳凰山第70号墓出土玉印「泠賢」二顆の文字について
 和中簡堂氏(全日本篆刻連盟理事長) 戦国文字について
 佐々木佑記氏(書道博物館) 近代日本における印学の受容-中国美術蒐集の視点から-
 原田祐参氏(岩手県立博物館) 歴史資料にみる太田孝太郎の足跡
 佐藤貴保氏(盛岡大学)
岩手県立博物館蔵西夏文印章について
 劉海宇氏(岩手大学)
『楓園集古印譜』にみえる古璽の調査と研究